もくもく生活日記

日々の生活で思ったことを少しずつ。

父の最後の言葉

 

「今日はいい日だな」

 

それが私の覚えている父の最後の言葉です。

 

その日は午前中から、父母弟と家族4人で映画を観に行っていました。観に行ったのは『塔の上のラプンツェル』。私の大好きだったディズニープリンセスの映画です。

 

父の横に座って、二人でポップコーンを分けてあって食べました。分け合ってと言っても、私と父はいつも映画が始まる前に競い合うように全て食べ尽くしてしまうので、母にはもっとゆっくり食べればいいのに、と言われたりもしながら、やっぱりその日も開演前に食べ尽くしてしまいました。でも私は知っていました。本当の本当の最後の一口は絶対に私にとっておいてくれること。そんな父が大好きでした。

 

あまりはっきりとは思い出せませんが、その日は割と朝早くから行ったように思います。

帰りの車の信号待ちの時、父は言いました。

「今日はいい日だな」

まだお昼にもなってないのに、今日がいい日かどうかお父ちゃんはもうわかるんだ。なんて思ったのを覚えています。

今思えば、普段仕事で忙しい父にとっては、朝から家族で映画を観に行けたことはとても貴重なことだったのだと思います。でも当時の私はそんなことまではわからず、それでも、いい日、と父が言ったことが何か嬉しくて、特別な一日に感じました。

 

父はよく私を映画に連れて行ってくれました。

年に一度のプリキュアが大集合する映画は決まって父と観に行きました。私はちょうど初代から見始めていたので父も一番最初のプリキュアから知っていました。映画が始まるまでの時間、父と二人で得意げに初代から順番に名前を挙げていった時の父の楽しそうな顔が今でも忘れられません。

父は仕事で夜中に帰ってきても、私と話が通じるように1人でプリキュアの溜まっている録画を見ていてくれたそうです。

思えば久しぶりに帰ってきた父に喜んで私がプリキュアの話をまくしたてても、笑顔で一緒になって熱く語ってくれました。一緒に楽しんでくれることが、何より嬉しく私も楽しかったのです。

普段はバイクに乗っていてかっこいい父が、上映中私と一緒になってリボンがついたハートのペンライトを振ってプリキュアを応援する姿はどこか面白くて、バイクに乗る父も大好きでしたが、その姿は私だけが知っているように思えて、もっともっと大好きでした。 

あの時好きだったプリキュアに今でも特別な想いを感じるのは、そんな父とのあったかい思い出があるからかもしれません。

 

 

ディズニーの『カーズ』を家族で観に行ったときのことです。前にもお話しした通り、父はバイクに関する仕事をしていたのでそのつながりで車にも興味を持っていて、カーズの映画をとても楽しみにしていました。でもまだ幼かった私は開演前お馴染みの"映画泥棒"への注意喚起で怖くなってしまいぐずり出しました。半泣き状態の私を連れて一緒に外に出てくれたのは父でした。

好きなことになると子供のように無邪気に夢中になる父が、あんなに楽しみにしていたカーズの映画を始まる前に諦めて私をあやしてくれたことが、幼いながらに申し訳なく、でもとても嬉しかったのを覚えています。(少しして映画館に戻り最後まで観れました。)

 

父は仕事が忙しくあまり家に帰って来れませんでした。でも父と映画に行く日は、1日朝から二人で車に乗って、内緒で少し贅沢をして大きいコーラを買って、映画を見た後の帰り道は感想を言い合いました。その時間が、私にとって一番父を独り占めできる時間でした。

 

当時はまだ隣の駅に大型ショッピングモールが建っていなくて、映画の時はいつも隣の隣の駅まで車で行っていました。

父はショッピングモールができるのを楽しみにしていましたが、そのショッピングモールが建つ前に亡くなってしまいました。今度はモールの映画館にプリキュアを観に行くって約束したのに。そんなことを思ってももう父に届くことはありませんでした。

 

どの人にも与えられた一日の価値は平等で、誰だって明日死ぬかもしれない。そんなこと頭ではわかっていても日々の生活の中では忘れてしまいます。

でも、父の仕事が忙しかったおかげで私にとって父の帰ってくる日はいつも特別でした。

そのおかげで私は父が亡くなった時、もっと日々を大切にしておけばよかった、と思うことはありませんでした。そのことに今でもとても心を救われるし、本当に良かったと思っています。

 

いい日だな、いい日だな。そんないい日をもっとずっと、父と積み重ねていけると信じていましたが、それは叶いませんでした。

それでも、父と過ごした10年間に少しでも多くのいい日があったならそれだけで十分幸せなことです。その中の一つとして、映画鑑賞は私と父の特別な思い出になりました。

 

今もし映画に一緒に行けるとしたら、今度はどんな映画を選ぶのでしょう。恋愛映画でもサスペンスでも、ドキュメンタリーでもいい。ただ隣に座って、二人でポップコーンを早食いして、感想を語り合いながら車で帰る。もう一度だけ叶うならそれがしたいです。

 

いつかまた一緒に映画を見ようね。

それまでに私のお勧めを探しておきたいと思います。